ちょっと前から トンに相方ができた。
どうやらトンは女の子らしい。トンの方が体が大きいから。
他のカップルと諍いになっても 彼がトンを庇う姿に何だかホッとした。
人並み(鳥並み?)に暮らせているんだな。
数匹のトンビにかわるがわる攻撃を受けている場面を何度か目撃していただけに
尾羽の様子が他の子と違う事で
何かしらのリスクを負うんじゃないかと心配していたけど
私の取り越し苦労だったみたい。
ザンバラ尾羽はトンビにとっては 何の障害でもなかったんだね。
人間が一人で勝手に心配して 笑っちゃうね。
トンの第一印象は
「あの子 やけに見窄らしいなぁ・・・」だった。
羽毛がバサバサだった。
老鳥? 喧嘩? 怪我? 生まれつき? いろいろ頭に浮かんだ。
通りすがりの私が気付いたくらいだ。
あの日 トンはションボリとした姿だった。
小雨が降っていたせいもあったかもしれない。
トンビは怖いと思っていた。
子どもの頃 ちょっと怖い思いをした事があった。
どこかの家で飼われていた人慣れしたトンビに
お使いのお魚を ひったくられたのだ。
だけど トンに出会って
トンビの強面イメージが180度変わった。
彼女は人一倍警戒心が強い。その上とんでもなく不器用だ。
海上では かもめに競り負け追い払われ
陸地では 地面を走るカラスにさえ先を越される。
それに弱虫だ。
トンビ同士の諍いで ピピピッと悲鳴をあげているのは
大方トンだ。
何をしでかしたのか?時には数匹に囲まれてつつかれている事もある。
電柱の上で一休みしていても こちらがちょっと目線を送っただけで
オドオドと焦りまくり すぐに飛び立ってしまう。
そんな猛禽類イメージとは全く違う彼女の姿を毎日垣間見ていたら
気にならない と言う方が無理ですから(笑)
それで「不揃い尾羽の謎」を調べてみる羽目に。
結局どこにも答えは無かったけれど
代わりに トンビが小型犬をさらう とかいう
物騒なキーワードが出てきたりもして(苦笑)ギョッ!
どうなの? マユツバじゃないの?
私自身は生まれてこのかた トンビがワンコを掴んで
軽々と空を飛んでいる現場は 一度も見た事がないんだけど。
仮に見た事がある人がいたとしよう。
だけど果たしてその鳥は 本当にトンビだったのかな?
答えはありました。
実はトンビは屍肉を食べる鳥。
鷹や鷲のように生きている獲物を狩る事は まず無い。
また 人間の食べ物も口に入れる雑食であり
だから生きている小型犬をさらうなんて話はナンセンス と書いてあった。
ってか カラスに一回り大きいだけの体格で
自分より重い物を掴んで飛ぶ力なんて トンビには無いそうだ。
なるほど あながち海岸近くにトンビが多く生息してるワケはそこかもしれない。
干潮の時間帯に特にアクティブに干潟の上を飛んでいる姿をよく見かける。
「狩り」ではなく干潮の浜に落ちている食べ物を「拾って」いるだけだ。
たまたま愛犬の周辺に落ちていた物をトンビが拾おうとして降下してきた瞬間を
愛犬が狙われたと勘違いした飼い主がいたとしても仕方ないかもしれない。
屋上ドックランでトンビが狙ってるのはワンコではなく
無防備に出しっぱなしにされているオヤツの袋だとしても。
人の集う所 後片付けに疎い人は必ずいる。
そう言う私も いろんな事を イメージや先入観・伝聞だけで
知ったような気になっている事がある。
ただ 例え真実でも
「A」という事実が 相手にも「A」として伝わればいいけれど
相手が元々持っている価値観や先入観によっては
「A」が「B」だったり「C」だったりと 受け取られ方の違いは絶対あるから
自分の伝えた事が勘違いされて受け取られるとしたら ちょっと怖い。
だから人に頼らず自分で確かめたいね。
だけど なかなか難しいよね。
今に至っては 私はすっかり
トンの大ファンになってしまった。
まるで柱の陰から「ガンバレ!」と我が子を応援する母のような心理だ。
地道に働きかければ 僅かだが距離も縮まる不思議もあるかもしれない。
彼女に認知されたくて 毎日見上げては「トン」と意味不明の言葉をそっと投げかける。
そんな 白黒の犬を連れたオバチャンを
彼女はどう判断しているのだろう。
きっと無害だとは認めてくれたはずなのだ。
あんなに慌てて逃げ出していたのに
見つめても声をかけても 今は逃げ出す素振りはない。
私をじっと見下ろして ピーヒョロロと鳴く。
「トン!」と呼ぶと クイっと振り向く(ような気もしてきた
)
確かにさっきまでいなかったはずなのに 私達がブラブラ散歩し始めると
いつの間にか出てきて 電柱にちょこんと座っている。
毎回あまりにタイミングが良すぎて
「会いに来てくれてるのでは?」と 都合良く解釈したくなる。(笑)
だけど 風のある日のトンは
印であるザンバラの尾羽の隙間から空の景色を覗かせて
猛スピードでスライドするように海を右に左に横切り
地上に目を光らせ
そのうち上昇気流に乗って 高く高く遠く舞い上がっていく。
「トーン!」と叫んでみる私には脇目もふらず 翼をガッと広げて飛ぶ姿には
地上での見窄らしさとかオドオドした態度とか
そういう風貌はカケラも無くて
雄々しくて どこまでも威厳に満ちて とてもとてもかっこいい。
当たり前だけど
やっぱり空は トンにふさわしいと フッと思う。
同時に まるの事をフッと想う。
昔 ふさわしい場所を必要としたあの子にどこか似ている と。
見えなくなるまで ずっと眺める。
胸がスーーーッとするよ。トン。
ここ1週間 トンと会えない日が度々でてきた。
彼女は繁殖期に入ったのだ。
弱虫トンも母になる。
母は強し。ガンバレ!トン!